MASのモデル

勢力均衡モデル

公開日:2025/5/28

 書籍『コンピュータのなかの人工社会』の「第10章 戦争と同盟の国際社会」に掲載している勢力均衡モデルを、artisoc Cloudに移植しました。

 

※ Edge、Chrome、Safariで起動が遅い場合は、Firefoxをお試しください。
※ standardライセンスを利用すると起動が速くなります。

1. シミュレーションの流れ

 初期状態では98ヶ国の国家から構成され、それぞれの国家はパワーと領土を持っている。パワーは、国家が他国と戦争をする際に用いる資源であり、この大きさが戦争の勝敗に影響を与える。
 シミュレーションはターンという単位で構成され、各ターンは8つのフェイズからなる。
 シミュレーションは国家が一国となるか、1,000ターンで終了する。

第1フェイズ:イニシエータの選択

 戦争を行おうとする国家(イニシエータ)が選択される。この選択は、パワーの大きさに応じてウェイトをかけた上で、ランダムに行われる。

第2フェイズ:ターゲットの選択

 第1フェイズで選択されたイニシエータが攻撃対象とするターゲット国を選択する。イニシエータは自国に隣接する国家の中から、自国よりもパワーが小さい国家を攻撃対象に選択する。このとき、イニシエータは隣接国のパワーの大きさを正確に認識しているとは限らない。

第3フェイズ:ターゲットの対応

 ターゲットが、単独で戦うか、それとも同盟を形成するかを選択する。ターゲットも他国のパワーの大きさを自らの主観によって判断する。
 同盟形成ルールを一般化した形で以下に示す。

 ※同盟形成ルール

 1. すでに相手側同盟に参加している国家は除外
 2. 同盟国は敵側盟主(イニシエータもしくはターゲット)に隣接していること
 3. 同盟国のパワーの総計は、敵側同盟のパワーの総計よりも大きいこと
 4. ルール1~3を満たす最小の同盟を形成
 
 同盟を打診された国家は、ターゲット、他の打診された国家、イニシエータのパワーを自らの主観で評価し、防御側同盟の方がイニシエータよりもパワーが大きいと判断すれば、同盟に参加する。
 同盟が形成された場合には第4フェイズに進み、単独で戦争を行わざるを得ない場合は第7フェイズに進む。

第4フェイズ:イニシエータの対応

 ターゲット側同盟が形成されると、イニシエータは自国のパワーとターゲット側同盟のパワーを比較する。自国の方が強いと判断すれば、そのまま戦争となる(第7フェイズへ)。他方、自国の方が弱いと判断した場合には、ターゲットと同じ同盟形成ルールに基づいて同盟形成を行おうとする。
 同盟が形成できなかった場合や形成された同盟がターゲット側同盟よりも弱いと判断した場合には、イニシエータは戦争を断念する(第8フェイズへ)。強いと判断した場合は第5フェイズに移行する。

第5フェイズ:ターゲットの最終対応

 ターゲットは防御側同盟と攻撃側同盟のパワーを比較し、自国が盟主である防衛側同盟の方が強いと判断した場合には、戦争を決意する(第7フェイズへ)。防御側が弱いと判断した場合には、第3フェイズでの同盟形成と同じルールに従って防御側同盟を再強化しようとする。
 もし、新たに同盟に参加する国家が現れ、同盟形成に成功した場合には、第6フェイズに移行し、同盟強化の試みが失敗に終わった場合には、第7フェイズに進み、戦争となる。

第6フェイズ:イニシエータの最終決断

 イニシエータは強化された防御側同盟を評価し、攻撃側同盟よりも防御側同盟の方が弱いと判断すれば戦争を決意する(第7フェイズへ)。
 攻撃側同盟の方が弱いと判断すれば攻撃を断念し、第8フェイズへと移行する。

第7フェイズ:戦争

 戦争の勝敗は、攻撃側同盟の真のパワー総計、防御側同盟の心のパワー総計、および偶然性(時の運)を加味して決定される。
 戦争のコストは下記に従うものとする。
・・・式1
・・・式2

第8フェイズ:パワーの収穫

 戦争の有無に関わらず、すべての国家が自国の領土の大きさに応じて新たなパワーを獲得する。
 各領土単位は固有の地力を持っており、それに応じた新しいパワーが生じる。

 

2. パラメータ

パワー初期値:平均と標準偏差

 ゲームの最初に国家が持つパワーの大きさが決定される。

パワー評価誤差:平均と標準偏差

 国家が他国のパワーをどれだけ正確に見極めるかを決定する。

偶然性

 戦争の勝敗は単にパワーの大きさだけでなく、そのときの運にも左右される。

基本戦争コスト

 戦争にはコストがかかるようにモデル化が行われている。式1で用いる。

賠償金率

 敗戦国が自国のパワーのうち、どの割合で賠償金を支払わなければならないかを決定するパラメータである。

パワー収穫率

 第8フェイズで各国が領土から新たなパワーを収穫する際に、どの程度の収穫が行われるかを決定する。

 

3. 質的なバリエーション

意思決定ルール

 「リスク愛好型」と「リスク回避型」の二つのバリエーションがある。
 上記ターンの第6フェイズがあるものを「リスク回避型」、ないものを「リスク愛好型」としている。

評価誤差識別ルール

 「評価誤差識別型」と「評価誤差同一型」の2種類がある。
 「識別型」では他国のパワーを評価する際、国ごとに異なる評価誤差を持ち、「同一型」ではすべての国家に対して同じ評価誤差を持つ。

評価誤差更新ルール

 「評価誤差更新型」と「評価誤差一貫型」がある。
 「更新型」では各ターンごとに新たに評価誤差を振り直し、「一貫型」ではゲームの最初に振られた誤差を最後まで維持する。

 

 

新商品普及モデル 基本情報

【モデルタイトル】:勢力均衡モデル artisoc Cloud
【モデル考案者】:玉田正樹
【モデル発表年】:2000