身の回りの複雑系

大災害の発生頻度

BTWモデルってなんのこと?

英語(米語)の辞書には、By the Way(ところで)の省略形と載っているはずです。ASAPがAs Soon As Possible(なるべく早く)の省略形なのと同類ですね。もちろん、「ところで」モデルというモデルがあるわけではありません。

BTWに似ている頭文字に、BLTがあります。アメリカでポピュラーなサンドイッチで、ベーコン・レタス・トマトが具として挟まっています。だからといって、BTWは新しいサンドイッチでもありません。

BTWとは、今から30年ほど前に、不思議な現象を引き起こすコンピュータ・モデルを示した3人の学者さんの名前の頭文字を並べたものです。Bak, Tang, Wiesenfeldの省略形です。その後、この種の現象が自然界のあちこちで起こることが分かり、パイオニア的な仕事として広く知られるようになりました。(⇒砂山くずしモデルを参照

モデル自体は2次元セルオートマトンのひとつです。(⇒エレメンタリー・セルオートマトンってどんなもの?を参照

そしてその不思議な現象は、BTWによって、自己組織化臨界と名付けられました。自己組織化という言葉も臨界という言葉も難しいですが、それらがくっつくともっと難しくなります。でも身の回りの複雑系としては、ありふれた現象だということが分かってきました。


自己組織化臨界ってなんのこと?

適切な条件下で、水の分子は自然にきれいな幾何学模様に成長して雪の結晶になります。生き物は、遺伝子の持っている一次元情報を基にして、三次元の複雑なタンパク質を作り、さらに細胞、そして最後にはヒトのような複雑な個体になります。このように自然界では、ミクロな(微少な、局所的な)モノどうしの一定のルールに従った相互作用から、マクロな(巨大な、大局的な)構造が「自然に(放っておいても)」作り出される場合があります。

その仕組みはいろいろありますが、共通する特徴を「自己組織化」と呼んでいます。「ひとりでに(勝手に)」組織ができあがってしまう(自分自身で組織を作ってしまう)ということですね。

水の分子がたくさん集まって、マクロな「ミズ」として私たちの目に見えるくらいになっていますが、「ミズ」は固体(氷)になったり、液体(水や湯)になったり、気体(水蒸気)になったり、マクロな状態を変えます。その境目は、日常的な環境では、氷と水の場合は摂氏0度、お湯と水蒸気の場合は100度です。氷を徐々に温めると、氷水になりますが、氷が溶けてしまうまで0度のままだし、さらに暖めていくとお湯は沸騰し始めますが、すっかり蒸発してしまうまで100度のままです。

このような異なるマクロな状態の境目のことを「臨界」と呼びます。上の「ミズ」の例では、人為的に熱を与え続けることで、臨界を生じさせることができます。

臨界は、このように、特別な場合のみに生じる現象なので、外部から人間が適切にコントロールしないと臨界は維持できないと考えられてきました。その典型が、原子炉です。核反応を、減衰でもなく暴走でもなく、適度な連鎖反応を維持するために制御棒を抜いたり入れたりするのです。

ところが30年ほど前に、臨界がひとりでに(放っておいても)生じることが分かってきました。 自己組織化臨界とは、ミクロなモノどうしの一定のルールに従った相互作用から、マクロな臨界という微妙な状態が自然に(放っておいても)生じてしまう現象のことなのです。 このような現象をモデル化したパイオニア的な仕事として、砂山くずしモデルあるいはBTWモデルが提案されました。 (⇒砂山くずしモデルを参照

今では、雪崩、森林火災、地震などが自己組織化臨界の生み出す現象だと言われています。自己組織化臨界は非常に微妙な状態なので、「原理的に」こうした現象が次に「いつ」「どこで」「どのくらいの規模」で生じるのか予測できないことが分かっています。地震予知は、難しいのではなく、原理的に不可能だ、ということです。