MASのモデル
シェリングの分居モデル
分居モデルとは
アメリカ社会では、黒人と白人あるいはヒスパニックの人たちが人種ごとに分かれて住み、混じり合おうとしない「住み分け(分居、segregation)」という現象が見られ問題になってきました。 日本社会でも、多くのコリアタウンやブラジリアンタウンが形成されています。 分居モデルは、この住み分けという現象のメカニズムについて考察するために考案されたモデルです。 トーマス・シェリングというアメリカの経済学者(2005年ノーベル経済学賞受賞)によって、1971年に発表されました。「住み分け」の背後に働いているかも知れない驚くべき メカニズムを教えてくれる「古典的な」モデルです。
モデルのルール
ある街に、赤人と青人が住んでいます。最初はそれぞれが無作為に街のなかに住むものとします(図1)。 それぞれの人は、自分の周りに住んでいる人のうちどれくらいの人が、自分と同じ色(人種)であるかを知っています。 この比率のことを「同色率(%)」ということにします。
みんなある程度同じ色(人種)の人々の近くに住みたいと思っています。同色率が自分の希望に満たない人は、空いている土地を探して引っ越しをするものとします。
この基準のことを「満足水準(%)」と呼ぶことにして、街に住んでいる人はみんなが同じくらいの満足水準を持っていることにしましょう。 例えば、60%という満足水準を持っている人は、自分の周りに住んでいる人のうち同色の人が60%に満たないと、引っ越しをします。
このルールに従って、みんなが居住する場所を決めたら、どんなことが起こるでしょう。
モデルの見どころ
赤人と青人の住むところがはっきりと分かれた街が形成されます(図2)。 満足水準が60%ということは、人々は、自分の周りに半分は異なる色(人種)の人々がかなりの割合(40%)で住んでいても良いと思っていることを意味しています。 それでも赤人と青人に分断された街が形成されるのです。
街の住民がどれくらい分かれているのかは、全員の「同色率」の平均によって測ることができます(これを「分居度」と呼ぶことにします)。 満足水準に比べ、はるかに(つまり必要以上に)高い分居度が生じることが分かります(図3)。 満足水準が60%の人々だと、最終的には分居度は90%を超えます。ほとんど同色の人同士が集まって住む街が形成されるのです。
このモデルのふるまいは、それぞれの人の意識がさほど排他的(人種差別的)でなくても、全体としては地域社会の分居現象(住み分け)が生じてしまうことを示しています。 逆にいえば、分断された街が形成されていたとしても、実は、それほど住民たち同士は嫌い合っていないのかもしれません。もちろん嫌い合っているのかもしれません。
もっと読むなら
・土場学、小林盾、佐藤嘉倫、数土直紀、三隅一人、渡辺勉編(2004)『社会を<モデル>でみる:数理社会学への招待』勁草書房、136–139頁
・Thomas SCHELLING, 1971, “Dynamic Model of Segregation,” Journal of Mathematical Sociology, Vol.1, No.1, pp.143-186.
・Thomas SCHELLING, 1969, “Models of Segregation,” American Economic Review, Vol.59, No.2, pp.488-493.
【キーワード】:分居・人種差別・マルチエージェント・シミュレーション・モデル
シェリングの分居モデル 基本情報 【モデルタイトル】:分居モデル(Segregation Model)artisoc Cloud artisoc4【モデル考案者】:Thomas Schelling 【モデル発表年】:1969 【artisocサンプルモデル作成】:玉田正樹、光辻克馬 【artisocサンプルモデル作成日】:2016年6月20日 |