MASのモデル

プランクトン生態系モデル

プランクトン生態系モデルとは

 コンピュータの中にいろんな生き物をつくって、仮想的な生態系の実験をすることができます。 『人工社会構築指南』(16章)でとりあげたプランクトン生態系のモデルはそんなモデルです。 このモデルを使って、生態系を安定化させる実験に取り組んでみましょう。

 

モデルのルール

 アクアリウム(水槽)の中には植物プランクトンと動物プランクトンがいます。 植物プランクトンは、光合成などをつうじて外から流入するエネルギーを吸収する術をもっており、自己増殖する力を持っているものとします。 ただ、水槽の大きさは限られているので、数が増えて人口密度(プランクトン密度)が高まり過ぎると環境が悪化します。 自分の周囲にあまりに多くの植物プランクトンがいると、そのプランクトンは死んでしまいます。 そのため植物プランクトンが無限に増えていくことはなく、人口はある程度のところで落ち着くことになります。 

 動物プランクトンは自分でエネルギーを作り出すことができません。 周囲にいる植物プランクトンを食べてエネルギーを獲得します。 ただ移動するのにエネルギーが必要なので、十分な植物プランクトンを食べることができないと死んでしまいます。 逆に十分にエネルギーを蓄えることができたら、子供を作って人口を増やします(子供にエネルギーを分けます)。

上記モデルをシミュレーションに組み込んで、実行してみます。

 


モデルの実行にはartisoc または artisoc player(無償)が必要になります。

 

このモデルの面白いところ?不安定な生態系

 外からエネルギーを得て自己増殖する植物プランクトンと、その植物プランクトンを食べて生きていく動物プランクトンは、アクアリウムのなかでミニマムな生態系を構成しています。 この生態系はどのようにふるまうでしょう。 

 動物プランクトンが増えれば、捕食者が増えたことで植物プランクトンが減り、植物プランクトンが減れば、食料が減ったことで動物プランクトンが減り、動物プランクトンは減れば、捕食者が減ったことで植物プランクトンは増え、植物プランクトンが増えれば、食料が増えたことで動物プランクトンが増える‥‥といった具合に食物連鎖は自動的に生態系を安定させると考えられています。

 しかし、プランクトン生態系のモデルを動かしてみると、コンピュータのなかの生態系はそんな簡単に安定しません。 

 しばらくは維持されますが、やがて動物プランクトンが急激な人口爆発を起こしたあと、今度は人口が急落し絶滅するという結果になる場合がほとんどです。 その場合も、決して植物プランクトンがいなくなって動物プランクトンが死滅するわけではありません。 植物プランクトンは水槽のなかにいなくなっているわけではなく、かなりの数の植物プランクトンが生き残っていることもしばしばです。 時間が経過するうちに、植物プランクトンと動物プランクトンがアクアリウムのなかで空間的に偏在するようになります。 植物プランクトンがいるところに動物プランクトンはおらず、動物プランクトンがいるところに植物プランクトンがいない状況が生じるのです。 植物プランクトンは存在するのに動物プランクトンが見つけられないのです。

 なんとか動物プランクトンの絶滅を回避し、生態系を維持する方法はないでしょうか。

 

 

君は生態系を救えるか?

 絶滅してしまう動物プランクトンをどうすれば生き延びさせることができるでしょうか? 

 プランクトンたちの能力を変えることで、あるいは新しい仕組みを生態系に取り入れることで、不安定なプランクトン生態系を安定化させることはできないでしょうか。 このモデルを使ってそんな思考実験をすることができます。

 植物プランクトンの再生産(子孫作り)の速さを上げたり、速く移動する動物プランクトンを導入したり、慎重に、あるいは逆に、大胆に、子孫を再生産する動物プランクトンを導入してみても面白いでしょう。

 MASコンペ(第7回)での発表された研究では、たいへん面白いアイデアが発表されています(「絶滅危惧種を守れ!」)。 絶滅危惧種である動物プランクトンを保護するために、保護ではなく逆に行動の制約を与えるのです。 具体的には動物プランクトンの入ることのできない植物プランクトンにとってのサンクチュアリ(聖域)を設定します。 聖域の存在によって、植物プランクトンが安定的に存在することになり、生態系を安定させることができます。 動物プランクトンを守るために、植物プランクトンを守るという逆転の発想ですね。(⇒第7回MASコンペ結果を参照

 

 

自ら生態系を救うプランクトン?

 自ら安定的な生態系を生み出す動物プランクトンを思いつく人もいます。 

 ひとつは、縄張りをもつ動物プランクトンです。 このプランクトンは近づいてきた他の動物プランクトンをなんと殺してしまいます。 怖いですね。 びっくりすることに、実はこれだけで生態系はかなり安定化します。 驚きの効果は、ぜひ実際にモデルを動いているところを見てください。 動物プランクトンが近くにいるもの同士で殺し合うことで、動物プランクトンの偏在が防がれ、そのことで生態系は安定します。 

 もうひとつは、満腹中枢をもつ動物プランクトンです。 近くに植物プランクトンがいても、そのときの腹具合(保持しているエネルギー)に合わせて食べたり食べなかったりするものとします。 この場合も生態系はかなり安定化します。 動物プランクトンがむやみに食べないことで、ある部分の植物プランクトンが食べ尽くされて植物プランクトンの偏在が生じることが防がれ、そのことで生態系が安定したものと考えられます。 知足(欲張らないこと)は大事ですね。

 

 

参考文献

[1]. レン・フィッシャー[松浦俊輔訳](2012)『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』(白楊社)

 

光辻克馬(東京大学)2017年1月31日

 

モデル基本情報

【モデルタイトル】:プランクトン生態系モデル(Plankton Model)
【モデル考案者】:山影進
【artisocサンプルモデル作成】:山影進、光辻克馬
【artisocサンプルモデル作成日】:2017年1月31日