身の回りの複雑系
働く場所と住む場所
働く場所と住む場所は、どうやって決まるの?
人は、どうやって住む場所を決めるのでしょうか。毎年春には、進学や就職のため、若い人が地方から都心部に移住する現象が見られます。このように働く場所によって住む場所が決まる場合が多いです。 第三次産業では労働需要は主に都心部ですが、第一次産業では労働需要は生産物が獲得できる場所となります。
特に、古代は「働く」=「食料獲得」でした。そのため、漁業を生業とする人々は海産物が獲れる海辺の近くに集落を形成し、農業を生業とする人々は栽培植物に適した環境の近くに集落を形成していました。 現代よりも職住近接の傾向が強かったようです。例えば、歴史の教科書で見る貝塚跡とその周辺の住居跡は、その典型例と言えます。
このように食料獲得によって住む場所が決めるために、その場所で食料が獲れなくなると移住することもあります。また、季節によって獲れる物が異なる場合は季節毎に住み場所も変えていたようです。
これら古代人の生業と居住地の関係について、T.A.Kohler博士たちが西暦800年から1350年の北米南部の古代アナサジ族の居住変遷の要因を、 Sugarscapeモデルをベースにしたシミュレーションを用いて検証しています。 (⇒Sugarscapeモデルを参照)
Sugarscapeモデルの詳細については、モデルの説明をご覧いただければと思いますが、 シミュレーション空間に砂糖(食料)が分布しているなかで、アリが砂糖を見つけて、移動し、砂糖を消費し、子供を産むすることを繰り返すモデルです。
T.A.Kohler博士たちは、アリを古代アナサジ族の集落、砂糖をトウモロコシ畑に必要な土壌の生産力に見立てています。 そこで、古代アナサジ族の集落は、周辺のトウモロコシ畑から食料を獲得し、生産力が低くなり必要な量の食料獲得が難しくなったら、生産力が高い土地を探して移住します。 さらに、モデルに自然環境変化の要因を入れることで、古代アナサジ族の複雑な居住地変遷を再現することに成功しました。 最終的には、古代アナサジ族がその地方から去った後の足取りはわかりませんが、食料獲得や環境以外の要因が働いていたのではないかとも推察されています。
現在は、インターネットの発達によって働く場所に捕らわれることなく住む場所を選択できる場合も出てきました。将来、さらにこれが加速することで、人の住む場所はこれまでの歴史とは異なる様相を見せるかも知れませんね。