身の回りの複雑系

自然渋滞の発生

自然渋滞はなぜ起こる?

交通量の多い高速道路を走行していると、しばしば工事や事故など明確な原因がないにもかかわらず渋滞につかまり、 いつの間にか渋滞が解消していることがあります。このような、明確な原因がないにも関わらず自然発生する渋滞は「自然渋滞」と呼ばれています。 このような自然渋滞はなぜ起こるのでしょうか?


 

ヒントがあります。 信号待ちをしているとき、車間距離は1メートル以下なのに、走っているときは20メートルとか30メートルとかあります (渋滞学の提唱者である西成先生は、高速道で渋滞を引き起こしにく車間距離として40メートルを推奨しています)。 また、信号が青に変わって、前の車が動き始めると、自分の車が同時に発車することはなく、1、2秒遅れるのが普通です。


自然渋滞が起こりやすいと場所して挙げられるのが、「ゆるやかな上り坂の入口(サグ部)」や「トンネル入口」です。 サグ部やトンネルの入口に差し掛かるとドライバー自身は同じ速度で走行しているつもりが、自然と速度低下します。 それにより後続車両との車間距離が狭くなると、後続車両が一瞬ブレーキを踏みます。 そのさらに後続車両は、先行車両がブレーキを踏むことでブレーキを踏み、その後続車両も同様に次々とブレーキを踏んでいき、 ある程度の台数になると一旦停止してしまいます。


つまり、車間距離が短すぎる場合、サグ部などで発生した速度のわずかな揺らぎを吸収できずにブレーキを踏んでしまい、 後続車たちが次々とブレーキを踏み始めて、最初の「わずかな揺らぎ」を増幅してしまうのです。

 

もし、ドライバーが機械のように一瞬で判断し行動できれば、全ての車両が一斉に減速し、次の段階で一斉に元の速度に戻るはずです。 しかし、ドライバーは人間であるため反応のタイムラグが生じ、このような現象が起こります。
渋滞が発生すると、道路の流量を極端に低くなってしまうことから、渋滞の発生をいかに抑えるかが課題となっています。

 

自然渋滞発生をシミュレーションで再現

この自然渋滞のメカニズムを、マルチエージェント・シミュレーションのモデルとして再現したのが、自然渋滞発生モデルです。 半径37mの円状のテストコースに22台の自動車が配置され、走行する様子が再現されています。 (⇒自然渋滞発生モデルを参照)

 

 

 

シミュレーションを開始してしばらくの間は速度のゆらぎは非常に小さいため、渋滞なく走行できますが、 徐々に各車両間の車間距離にばらつきが出てきて、10分程度経過した段階で突然渋滞が発生します。


一度渋滞が発生すると、コース上の車両台数を減らすなどの何らかの外部操作を与えないかぎり渋滞は存在し続けます。 また、面白いことに渋滞箇所は徐々に移動しています。この現象は現実でも起こり、例えば事故などで渋滞したあと、 その事故箇所が通行できるようになってしばらくした後、その渋滞箇所は事故発生箇所よりもずっと後ろに移動しています。 自然渋滞発生モデルのなかで起こったような渋滞の発生は、実際の車を使った実験でも発生することが確かめられています。 下の動画は、東京大学の西成教授によって行われた実験の様子です。

 

自然渋滞の発生を抑制するためには

自然渋滞は、車両密度の高い、車間距離が詰まった状況で起きやすくなります。 自然渋滞発生モデルを用いて、車両密度と交通流量の関係を計測したものが下のグラフとなります。 横軸がテストコース上の車両台数(車両密度)で、縦軸が10分間あたりの計測ポイントの通過台数(交通流量)を示します。


車両密度が低い場合の流量は、台数が増えるに伴い流量が単調増加傾向にありますが、 ある程度密度が高くなると極端に流量が低くなってしまうケースが現れ始めます。 このようなケースが渋滞の発生した状況です。また、密度が約0.12から0.15の間では、 同じ密度でも試行によって非常に流量の高い状態と低い状態が存在し、結果にばらつきがあることが分かります。

この時、流量の高い状態は大変不安定な状態であり、何らかの拍子にブレーキを踏むなどのイベントが発生した途端に 流量の低い状態に陥ってしまいます。このような不安定な状態は「メタ安定状態」と呼ばれます。

自然渋滞の発生を抑制するためには、車両密度が高くなったときに、人間のゆらぎによって、車間距離が短くなったり広がったりする事態を避けることが必要です。 人間はそれぞれ意思を持っており、急いでいるとつい間をつめたくなるため、これを強制できません。

ためしに、自然渋滞発生モデルで、速度のゆらぎを0km/hと設定して実行してみましょう。 すると、車間距離はシミュレーション開始から変化がなく、いつまでたっても渋滞は発生しません。 もし将来、完全に中央から制御可能な自動車が普及した社会では、このような高密度な道路状況においても 渋滞が発生しにくく高い交通量を維持できるようになるかもしれません。

東京大学の西成教授の社会実験では、渋滞の名所で知られる、中央自動車道の小仏トンネル付近において、 渋滞発生時に車間距離を一定に保つ車両8台を一斉に、小仏トンネルに向けて走行させました。 その結果、8台の車両がトンネルを通過し終わった頃には、平均時速は80km/hまで回復しました。

このように、うまく人々の行動を誘導することで渋滞を緩和することは可能です。 もし何かアイデアがあれば、シミュレーション上でうまくいくか試してみてください。

森俊勝 (構造計画研究所) 2016年6月1日
光辻克馬 (東京大学) 2018年8月31日加筆修正