MASのモデル
ホタルの光モデル
どんなモデル?
ホタルの集団がタイミングを合わせて発光する様子を再現したモデルです。
個々のホタルは一定の間隔で発光を繰り返しますが、ある種のホタルは個々がバラバラに発光するのではなく、集団全体で発光のタイミングを合わせることが知られています。
なぜ、集団全体で発光のタイミングを合わせることができるのでしょう?どこかに「指揮者」のホタルがいるのでしょうか?
実は、「指揮者」が存在しなくても、個々のホタルが周囲のホタルとタイミングを合わせようとするだけで、集団全体の発光タイミングが合うことがわかっています。
モデルのルール
正方形の空間に、タテ20×ヨコ20の計400匹のホタルが並んでいます。
それぞれのホタルは、一定の間隔で発光します。 具体的には、発光したあと一定時間をかけて暗くなっていき、完全に光が消えた直後に再び発光する、ということを繰り返します。 この一回の繰り返しにかかる時間はそれぞれのホタルで共通ですが、最初に発光するタイミングはバラバラです。
それぞれのホタルは、自分の近くのホタルと発光のタイミングを合わせようとします。 たとえば、近くのホタルが自分より先に発光していれば自分の発光のタイミングを少し早め、自分より後に発光していれば発光のタイミングを少し遅くします。 コントロールパネルの「同期数」はタイミングを合わせるホタルの数、「同期距離」はタイミングを合わせるホタルの距離を表します。 ホタルは毎ステップ、同期距離の範囲内にいるホタルからランダムに同期数だけ選び、そのホタルそれぞれに対して発光タイミングを合わせようとします。
ポイントは、「指揮者」となるホタルがいるわけではなく、個々のホタルが近くのホタルだけを見ていることです。これだけのルールで、集団全体の発光タイミングが合うのでしょうか。
モデルの見どころ
モデルを実行すると、最初はそれぞれのホタルがバラバラに発光しています。 しかし時間が経つにつれ、全体として光が波のように移っていくパターンが現れてきます。 さらに時間が経つと、全てのホタルの発光タイミングがほぼ完全に一致します。
時系列グラフは、ホタルの明るさの合計値を示しています。 最初は全員がバラバラのタイミングで発光しているので、明るさの合計値はあまり変化しません。 発光タイミングが合ってくると、全員が同時に光り同時に消えるということですから、明るさの合計値の振れ幅が大きくなっていきます。
このように、個々のホタルが近くのホタルと発光タイミングを合わせようとするだけで、集団全体としても発光タイミングが合うことが分かります。
同期する結合振動子
このように、全体のタイミングが合う現象を同期現象と呼びます。実はこの同期現象は、ホタルだけに見られる現象ではありません。
科学史上、最初に同期現象に着目したのは、17世紀のオランダの科学者ホイヘンスと言われています。 彼は、壁に固定された二つの振り子時計の振り子が完全に歩調を揃えて左右に振れることに気づきました。 振り子が壁の振動を通じて互いに同期していたのです。
理論的には、ホタルの光や振り子のように、一定のリズムで同じ動きを繰り返すユニットを振動子と呼びます。 そして、互いに影響を及ぼし合う振動子の集まりを結合振動子と呼びます。 結合振動子が同期する現象は、ほかにもたとえば以下のようなものがあります。
・メトロノーム: 複数のメトロノームを振動をよく伝える台の上に置いて一斉に動かすと、やがて同期することが知られています。(比較的簡単にできる実験なので、試してみましょう) 下の動画は、東京理科大学の池口研究室による実験の様子です。
・心臓: 心臓にはそれぞれリズムを刻む大量のペースメーカー細胞があり、それらが同期することで全体として一定のリズムを刻んでいます。
・つり橋を歩く群衆: つり橋を歩く群衆の歩調が同期すると、それが大きな力となって橋を左右に揺らします。2000年に開通したロンドンのミレニアム・ブリッジの事例が有名です。
このような同期現象は古くから知られていましたが、理論的に扱えるようになったのは比較的最近のことです。 なぜならば、この現象は「全体が部分の総和としては理解できない」いわゆる非線形現象と呼ばれる現象の典型的な例であり、理論的に扱うことがたいへん難しいからです。
同期現象の解明により、自然界の多くの現象が説明できるだけでなく、人工的なシステムへの応用も期待されています。
このホタルの光モデルのように、MASを用いると同期現象を比較的簡単に表現することができます。モデルを通して、同期する不思議を体感してみてください。
結合振動子モデル 基本情報 【モデルタイトル】:結合振動子モデル artisoc Cloud artisoc4【サンプルモデル作成者】:玉田正樹(構造計画研究所) |