第1回 ABSコンペティション/Jun. 22.2001/発表概要

 

大学-学会モデルによるアカデミック・ソサエティの盛衰予測に関する研究

-マルチ・エージェント・シミュレータABSによるケーススタディ-

谷本 *,藤井 晴行**

1.緒言

 本研究の目的は、研究教育機関としての大学およびそれと不離の関係にある学会とを人工社会上に模擬し、それらの運営システム、就中、大学の人事システム,研究評価システムが、アカデミック・ソサエティの盛衰に如何なる影響を及ぼすのかを明らかにしようとのものである。

2.モデル概要

 本人工社会は50×50メッシュの正方2次元平面により構成され、Professor_1,Professor_2,Professor_33種のAgentが存在する。この平面には研究者生命維持,研究者の論文執筆に必要な研究シーズが散布している。研究シーズを研究深度で表現するなら、初期状態はすべての座標位置(X,Y)において研究深度=0であり、研究限界深度=100まで、すなわち100当量の研究シーズが存在することになる。Agentは、主として、研究シーズを掘り下げる研究掘削力と研究フィールドを移動する分野移動力からなる属性を付与され、両者は初期生成Agent間で有意差がないように設定される。各Agentは、研究フィールドを移動することにより研究流行性を獲得し、研究シーズを掘削することで研究パラダイム性を得、両者により特徴づけられる論文を定期的に学会に投稿する。投稿された論文は、各Agentの中の一人により審査され、採否の断が下される。世代交代に際しては、過去の採用論文数が最大のAgentが後継者を生成する権利を得る。また、Agentの存在位置における残存研究シーズが彼の研究掘削力を下回る場合は、研究活動休止を余儀なくされ、連続1年間研究活動休止となったAgentは、抹殺されるオプション(連続研究活動休止に条項によるパージ)が世代交代に加えうる。通常の世代交代としては、Agent60歳となった場合に発生する定年退官である。既述したように、3種のAgentの分野移動力(2次元平面におけるAgentの最大移動能力),論文投稿間隔や研究能力(研究シーズを掘削する能力)と云った基本属性の統計値に差異はないが、人工社会の2次元平面上における移動時のロジックが異なる。

 Professor_1は、基本的には初期発生位置を動かない。研究シーズがなくなり、研究者生命の継続が危殆に瀕した場合にのみ、周囲直近の研究シーズが未だ残存している場所へと移動する。これは、いわば頑固一徹の我が道を行くタイプである。一場所に根が生えたように居着いて、こつこつ我が研究を進めるタイプである。

 Professor_2は、常に先人の研究により耕された(本稿では一般語彙で云う学問分野を耕すことを以下掘削すると表現する)分野を追い求めて移動する。研究シーズを2次元平面上の地形に喩えるなら、谷底を探し求めるタイプである。これらは後述するように、結果的には無意識に派閥を形成し、衆を恃んで行動する傾向にある。また、研究領域が既に学問的には終焉し、ある種の飽和状態、すなわち、もはやこれ以上掘削不能(学問的進展不能)で最深の谷底に至っているのに、そこから抜け出そうとしない、と云う行動様式を見せる。

 Professor_3は、常に研究シーズが最も残っている領域を求めて移動する。研究シーズを2次元平面上の地形に喩えるなら、頂上ないしは尾根を常に探し求めるタイプである。これは、常に人のやらない隙間隙間の研究領域を求めて分野を移動するタイプであり、研究分野移動のダイナミズムが大きく、反面、一所に腰を落ち着けてこつこつやると云う性質は持ち合わせないことになる。

 さらに、研究レベルが進行し、全体の残存研究シーズが少なくなると、2次元平面上にパラダイムシフトへのボタンが表示され、その場所をAgentがある深度以上に掘削することで、パラダイムシフトが発生する。パラダイムシフトとは、残部が少なくなりつつあった2次元平面上の研究シーズが、初期状態、すなわち、100当量の研究シーズに復活することで模擬される。

 大略、以上のようなルール設定で、世代を経る毎に、3種のAgentの人口推移が如何なる変動を見せるか、さらに生産される論文の質がどう云った変容を遂げるかに着目してケーススタディを行った。

3.ケーススタディ結果

 ケーススタディの結果をまとめれば、大略、以下のようになる。

(1)     Professor_2は研究シーズが少なくなり、穴状に拓けた領域を中心に、一種の派閥行動を展開する。蝟集した穴の中心部では研究シーズが少ないため、研究活動中止に追い込まれる。そのため、1ステップごとに穴の周縁部の研究シーズが残存している場所まで出掛けていって、活動再開して命をつなぐ。この繰り返しにより、Professor_2の生産論文は、特にパラダイム性について低質のものとなる。

(2)    
低質論文を生産する不適格大学教官Professor_2は、早晩、死滅する命運にある。世代交代プロセスが、譬え、累積論文数の多寡で判断されたとしても、論文の査読システムの厳正さが維持されれば、低質論文はその段階でスクリーニングされ、Professor_2は成績を向上し得ないからである。しかし、この傾向は、査読システムが甘くなると、緩和される傾向にある。

(3)     パラダイムシフトが低い水準で発生する場合、すなわち、環境が、研究シーズがわずかに残存する部分とあらかた失われた部分とに明然に分布すると云う過酷な状況に立ち至ることがなければ、厳正な査読システムが存在し、加えて、現況の大学にはない連続研究活動休止に条項によるパージが機能したとしても、不適格大学教官Professor_2には生き残る余地がある。

4.結語

 アカデミック・ソサエティの盛衰を模擬すべく、著者らが開発している大学-学会モデルをABS上に構築し、ケーススタディを行い、その概要を述べた。

[参考文献]

[1]谷本潤・藤井晴行・片山忠久・萩島理,複雑系モデルに基づくアカデミック・ソサエティの盛衰予測に関する研究 日本建築学会・建築関連大学における実事求是の模索,日本建築学会計画系論文集#5472001.9

 

1 ケーススタディ画面表示例(フルペーパにおける基本ケースの結果(2))

 

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資料のダウンロード(PDF書類、418KB)

モデルファイルのダウンロード(61.1KB)