「参加モデル」〜人の集まりの盛衰〜

 

東京大学大学院総合文化研究科

阪本 拓人 / 鈴木 一敏

 

本稿では、他人の動向を見て、特定の会合に参加するか否かの決断を下すエージェントに焦点を当てた「参加モデル」を紹介する。マップ上に配置されたエージェントは、会合に参加するか否かの決断を下す。この判断は、正規乱数によって付与された自らに固有の閾値と、他のエージェントの会合への参加率とを比べることによって行われる。その際、各エージェントが参照する範囲の違いから、モデルにいくつものバリエーションが考えられる。ここでは、全体の参加状況を参照する「グローバルな判断」ルール、A友人の参加状況を参照する「ローカルな判断」ルール、B異性の参加率を参照する「異性めあての判断」ルールの3つを考えた。そして、この3つのルールの全てがもっともらしく考えられる実際の例として、「毎年開かれる同窓会」を想定したモデルを作成し、3つそれぞれのルールの下でエージェント全体の参加状況がどのような挙動を示すのかを比較した。

「グローバルな判断」の下では、エージェントは全体の参加状況を参照して、自らの参加を決定する。今回用いた閾値の分布では、全員参加か全員欠席かに偏る傾向がみられた。

「ローカルな判断」では、マップ上のエージェント間の距離を心理的距離というふうに捉えた。そして、近傍にあるエージェントを仲の良い友人として、この友人の出席状況に基づいて自らの参加を決定するようにした。その結果、閑散とした同窓会には人が集まり始める反面、盛況な同窓会の参加者は徐々に減り始めるという結果が出た。

「グローバルな判断」ルールは、「ローカルな判断」ルールにおけるエージェントの交友関係がより広くなったものと論理的に同じものである。これらの結果を比較したところ、新たに同窓会を立ち上げる場合は、同窓生の間に広い友人関係がある場合に難しく、むしろ濃密で偏狭な友人関係の方が好ましいという結果が出た。

「異性めあての判断」では、エージェントに性別を与えて、前回の会合における異性の参加率のみを基準に判断させた。この場合の結果は、前回の女子の高割合を見た男子の増加と女子の減少→前回の男子の高割合を見た女子の増加と男子の減少、というサイクルが繰り返される結果、「男女のすれ違い」という両者が全く望まない結果が現れた。

この「参加モデル」が想定している参加動機は、実際に考え得るエージェントの参加動機のうちの一部である。ここでは、その要素だけを取り出して、ヒトが他人の行動を基準に行動した場合、ヒトの集まりは全体としてどのような運命をたどってゆくのかを考察している。普通あるレストランを選んで入ろうとするのは、そこの料理がおいしそうだったり、雰囲気が良かったり、立地が良かったりするからだ。しかし、その時の判断の一要素として「他の人がどうしているのか?」ということも重要である。実際、本稿での考察は、その一要素の違いだけからでも特徴的な傾向が生まれうることを示している。

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