『吉里吉里人』の境界−ABSを用いた分離主義モデル

 

2001/6/22

東京大学大学院 大学院生/光辻克馬

 

本モデル(以下分離主義モデル)は、現実の国際社会でも頻繁に起き続けている分離主義運動のシミュレーションをABSを用いて作成したものである。今回の実験では、ある国家内に存在するエスニシティの数が分離主義運動の性格や規模にどのような影響を与えるかという点に特に焦点を当てた。

分離主義運動が引き起されるとき、どのレベルのアイデンティティを用いて住民が動員されどのようなシンボルを掲げた運動が支持を集めるのかは決して自明なことではない。幅広い支持が得られるような一般的な運動が支持される場合もあるであろうし、特定の住民のみに訴える特定的な運動が支持される場合もあるであろう。一般的な幅広い支持を集める運動(以下、国民主義的な運動)が支持を集めた場合には、全体が一つに合同した形での宗主国から分離を求める運動が進められるであろう。特定の住民のみに訴える特定的な運動(以下、エスニックな運動)が支持を集めた場合には、それぞれのエスニック集団がまとまった形で、それぞれが宗主国から分離するというスタイルの運動が進められるであろう。


今回は、このようなパターンの違いに、国内にあるエスニック集団の数がどういう影響え与えるかに焦点を絞って、分離主義モデルを構築し実験してみた。2つのエスニック集団を抱える国家、4つのエスニック集団を抱える国家、6つのエスニック集団を抱える国家、それぞれで分離主義を発生させた。結果は非常に明確で、国内に多様なエスニック集団を抱えていればいるほど、国民主義的な運動は支持を伸ばしやすいというある種、直観に反するものであった。なぜ、分裂的な住民構成を持つ国家ほど、国民主義的な運動が支持を伸ばしやすいのだろうか。

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