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団子バス
団子バスとは

 こんな経験はないですか? 停留所で待っていても、バスがなかなか来ない。停留所は大行列。待ちくたびれたころになったら、3台ぐらいまとめてやってくる。

 「等間隔で来てくれたらこんなに待たずに済むのに!」
 「なんでこんな非効率なことになっているんだ!?」

 バス会社を非難したくなる気持ちは分かりますが、ちょっと待ってください。実はこの現象、無責任なダイヤ設定や運転手の怠慢が原因ではないのです。では、いったい何が原因だというのでしょうか?

団子化のメカニズム

 この現象を再現したのが、団子バスモデルです。4台のバスが、町を周回します。等間隔で設置されている4カ所の停留所には、一定時間ごとに新たな乗客が現れます。バスは停留所に着いたら新たな客を乗せてから出発します。

 バスとバスとの間隔がほんの少し開くと、その間に停留所に現れる乗客が増えますから、後ろのバスはその分だけ停留所で止まっている時間が長くなります。すると、前のバスとの間隔はさらに開き、その次の停留所ではさらに多くの乗客を乗せねばなりません。

 逆にバスとバスとの間隔がほんの少し縮まったらどうなるでしょうか? 停留所で後ろのバスを待っている乗客は少なくなりますから、乗降にかかる時間は短くなり、ますます前のバスに追いついていってしまうのです。

 つまり、このシステムでは、小さなタイミングのズレが生じたら、そのズレが拡大しやすい性質があります。このようにズレが拡大再生産されてゆくようなフィードバックのことを、ポジティブフィードバックといいます。おいしいラーメン屋さんに行列ができると、その行列のせいで注目があつまり、さらに客が集まって行列が長くなる、といった現象もポジティブフィードバックです。

団子防止のための研究

 団子バス現象が発生すると、乗客の満足度が落ちるだけでなく、渋滞の発生原因になったり、止まったバスの列を追い越そうと車線変更した一般車が事故を起こしやすくなったりと、困ったことが起きます。では、どうしたらよいのでしょうか?

 交通工学の分野では、1960年代ごろからバスの遅れや運行間隔のズレの原因が数式によってモデル化され、計測結果の検証も行われてきました(参考文献[1][2])。そこから、停留所間の走行時間のズレをなくすために優先レーンを設ける方法や、乗降しやすい車内設計や料金徴収方法にすることで一人当たりの乗降にかかる時間を短縮してフィードバックを抑制する方法も提案されています。

 それ以外にも、特に停留所にスペースがあるときには、後ろのバスが遅れたら前のバスが発車を遅らせるという方法もありえます。実はこの方法は、鉄道ではすでに実践されています。運転間隔が狭い大都市の電車では、「え~ただいま~後続の電車が~遅れております。運転間隔調整のため~しばらく当駅に停車いたします。ご乗車のまま~お待ちください。」というアナウンスが入ることがあります。時間通りに出発してしまったら、後ろの電車との間隔がさらに広がって、団子現象が発生してしまうからです。

とっくの昔に

 団子バス現象について見てきましたが、実はこのメカニズム自体に関していえば、大正時代にはとっくに知られていました。東京帝国大学で物理学を教えていた寺田寅彦は、1922年に発表した論考のなかで、この現象を説明しています。

 寅彦は、混雑した路面電車が連なってやってくる現象を分析して、意外な原因に辿り着きました。乗客です。乗客の側が、一番初めにやってきた電車に是が非でも乗ろうとするために、遅れが拡大していって団子状態が発生し、その団子の先頭の電車では耐えがたい満員状態が発生するとしています。そして、せっかちな乗客を皮肉ってこんな結論を述べています。

 「第一に、東京市内電車の乗客の大多數は――假令(たとえ)無意識とはいへ――自から求めて滿員電車を選んで乗つて居る。第二には、さうする事によつて、自ら其等の滿員電車の滿員混雑の程度を益々(ますます)增進するやうに助力して居る。」(参考文献[2], 56頁)

 実際に乗客なしでシミュレーションを実行してみると、団子現象は発生しません。(動画参照) 同じ理由で、停留所での乗降に時間がかからなければ、フィードバックはかからないはずです。ということは、もし乗客の行動パターンが変わって、混雑したバスを見送るようになったら、団子バスも解消されることでしょう。さて、ここで最初の疑問に戻りましょう。

 「等間隔で来てくれたらこんなに待たずに済むのに!」
 「なんでこんな非効率なことになっているんだ!?」

 もうお判りでしょう。団子バスのあの非効率の原因は、ほかでもない私たち自身だったのです。散々待たされて、ようやくやってきたバスには、何としてでも乗り込みたい気持ちになります。しかし、私たちがそうするがゆえに、バスの混雑がひどくなるばかりでなく、団子現象が発生して、結果的にバス停で待つ時間が長くなるのです。現代人は時間に追われている、と言われていますが、大正時代の人たちも、数分早く家を出ることが苦手だったようです。

鈴木一敏 2019年3月15日
参考文献
[1]. 河上省吾、米谷栄二「バス運転における遅延について」『第8回日本道路会議論文集』日本道路協会、1989-1991頁、1966年。
[2]. 高岸節夫、戸松稔「バスの運行挙動に関する二,三の考察」『土木学会論文報告集』第199号、79-87頁、1972年。
[3]. 寺田寅彦(筆名: 吉村冬彦)「電車の混雑に就て」『思想』12号、45-57頁、岩波書店、1922年9月。青空文庫
(https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2449.html)でも参照可。



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