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文化の変容
文化はどのように広がっていくの?
 文化は人々をまとめる役割を果たすと同時に、人々を区別する役割も果たします。 それは、文化のあり方が人々のコミュニケーションを容易にする場合もあれば、反対に困難にする場合もあるからです。 互いにコミュニケーションが容易な人々の間では文化がさらに似てきて、ますます容易になっていくのに対し、 互いにコミュニケーションが困難な人々の間ではそのような変化は起こらないでしょう。

 コミュニケーションはもちろん言葉の役割ですが、見かけ(服装、髪型など)や宗教・風俗・習慣なども コミュニケーションの容易・困難に影響します。 その意味で、人々の文化は多面的であり、その中で、言語的・非言語的コミュニケーションが行われているのです。 つまり、文化的な「距離」がある程度近いと文化が互いに似る方向に変容していくのに対し、 ある程度遠いとそのようなプロセスが生じないのです(⇒「文化をどう表すの?」を参照)。

 コミュニケーションは人と人との接触によって起こりますが、極端な2つの場合があります。 一つは、人々が動き回ることによって、さまざまな人が互いに接触する機会が増える場合です。 もう一つは、人々は動かないで、近隣にいる人との間でしかコミュニケーションが起こらない場合です。 この後者の場合に、文化的「距離」の遠近に注目して文化変容をモデル化したのがロバート・アクセルロッドでした (⇒アクセルロッドの文化変容モデルを参照)。

世界が広くなると文化も多様になるの?
 人々が交流できる範囲は地理的に拡大してきました。 古代には、都市(国家)と都市(国家)との間には広い後背地があり、交流は限られていました。 やがて、都市(国家)どうしが交通網(街道や航路)でつながり、古代帝国が世界各地に成立しました。 文字で表せる共通語が誕生するのもその頃です。 こうした古代帝国は、今日の国家と同程度の広さか、ローマ帝国のように何カ国にもまたがっている広大な領域を支配していました。

 今日は、10億人以上からなる大きな国家があります。 こうした国家は、広大でさまざまな文化集団を抱えながら、分裂せずにまとまっています。 また、グローバル化と呼ばれる空間を超越し、時間を圧縮する過程が進行しています。 そこでは取引や交信が瞬時に行われ、交流の質は多様になり量も大量になりました。 もっとも、今日でもニューギニアでは交流が少なく、そのために少人数の文化集団がいくつにも分かれて、互いにあまり接触せずに生活しています。

 人々の交流圏の大きさと文化の均質化とはどのような関係にあるのでしょうか。 空間の大きさが文化様式の多様性にどのような影響を及ぼすのかを分析しようとしたものにアクセルロッドたちが 提唱した文化変容モデルがあります(⇒アクセルロッドの文化変容モデルを参照)。 それによると、空間が広いと文化の均質的は高くなる傾向にあるが、マイノリティの文化が残る場合もあることを示しています。

言葉や文化はどのように消滅・変化するか
 危機言語(危険にさらされている言語)という言葉を聞いたことがありますか。話せる人がいなくなり、 地球上から消滅するかも知れない言語のことです。 ユネスコの調査によれば、日本にも8言語あり、とくにアイヌ語と八重山語が危機的状況にあるそうです。

 ある言語Aの話者が減っていくのは、別な言語Bも話すようになり、世代交代の中で、言語Bだけを話す 人々が多くなってしまうからです。言語Aの話者は、やがて孤立してしまうかもしれません。 言語Aを話せる人がいなくなった段階で、Aは完全に消滅してしまい、復活不可能です。

 言語に限らず、文化全般について、同じような現象が起こると言えます。異なる文化を持つ人々が継続して 接触・交流する場合、「優勢な」文化が徐々に浸透していき、「劣勢な」文化が消滅してしまう場合があります。

 あるいは、二つの文化が混交・融合して第3の文化が生まれるかも知れません。 このような現象は、実は言語でも生じることがあり、そのような言語のことを一般にクレオール言語と言います。 小笠原語(八丈語の影響大)は日本で話されているクレオール言語だそうです。

 アクセルロッドたちが提唱した文化変容モデルによって、このような文化(言語を含む)の消滅や変化一般の 仕組みを探ろうとした試みがあります(⇒アクセルロッドの文化変容モデルを参照)。

動物にも文化があるの?
 人間以外の動物にも文化があることを学術的に最初に示したのは、ニホンザルの「イモ洗い行動」を 記録した日本人による論文だそうです。

 幸島(宮崎県)で餌付けされたニホンザルの群れの中で、子ザル(1歳半、人間だと幼稚園の年長組か 小学1年生くらいですね)がたまたま砂浜に播かれたエサ(サツマイモ)を小川につけてから食べることを覚えたのだそうです。 きっと水につけると砂が落ちて芋を食べやすくなるのでしょうね。 やがて、このサルの母親が真似るようになり(逆垂直伝播)、遊び仲間も真似るようになりました(水平伝播)。 しかし、母ザル以外の大人のサルはこの文化を受け入れませんでした。

 イモ洗い行動を受け入れたメスザルがやがて母親になり、子ザルに受け継がれていきました(垂直伝播)。 また、川の真水ではなく、海水を付けるようになるという変化も起きました。塩味がついたイモの方が美味しかったのでしょうね。

 ニホンザルの文化としては、地獄谷温泉(長野県)で冬に露天風呂につかる例が有名です。 ここでも、子ザルが人間用の露天風呂に入ったのがきっかけだそうです。 しかし温泉につかるのは子供かメスで、オスのサルは入らないそうです。

 このように、誰にでも一様に伝播していくのではなく、近しいもの・似たものの間で文化変容が起こりやすくなるようです。 では、もっと一般的に捉えるにはどうしたら良いでしょう。(⇒「文化をどう表すの?」を参照)。  

文化をどう表現するか?
 文化は人々をまとめる役割を果たすと同時に、人々を区別する役割も果たします。 それでは、まとまったり離れたりする一人一人がどのような文化を持っていると表現すれば便利でしょうか。  たとえば、文化の違いを特徴付けるものを言語、宗教、風習などと具体的にリスト化する方法があります。 そして言語には日本語、英語、フランス語、中国語などがあり、宗教には仏教、ユダヤ教、キリスト教などがあります。

 しかし予め網羅的にリスト化するのは困難です。たとえば英語は、イギリス英語、アメリカ英語、 オーストラリア英語などと分けた方が良いかも知れません。 キリスト教も、ローマカソリック、ルター派、カルヴァン派、ロシア正教などと細かく分類した方が良いかも知れません。

 さらには、言語、宗教、風習だけでは不十分で、学歴、性別などなど、とリストをどんどん長くしていく必要があるかも知れません。 これでは、文化が人々をまとめる作用と分ける作用とを持っていることを一般的に考察することはできません。

 文化を一般的に捉えるには、少なくとも言語や宗教としてまとめるレベル(レベル1)と、 一人一人が◎◎語を話し、◎◎教を信じているという中身の違いのレベル(レベル2)とを区別する必要があります。 性別はレベル1で、男子とか女子はレベル2ですね。

 もっと一般化すると、文化のレベル1では言語・宗教・風習のように3種類に注目するとき、言語(A)・宗教(B)・風習(C)を<ABC>と、 3桁の文字列で表現することになります。 そして一人一人のレベル2については、たとえば<123>とか<135>とか<222>とか表現します。<123>と<135>とでは、 Aでは同じグループに属すが、BやCでは異なるグループに属すことが分かります。 <123>と<222>とでは、Bについて同じグループに属すが、AとCでは異なるグループに属すことが分かります。

 ここで大事なことは、123と135との距離は12だが123と222との距離は99なので<123>は<135>と近親で<222>とは 疎遠だというわけではない、という点です。 <123>などは文字列であって、数ではないのです。 <ABC>という3つの特徴のなかで、<123>は<135>とも<222>とも1つだけ共有しているので、同じ距離にあるのです。

 このような巧妙な文化の一般化を利用して、人々がまとまったり、分かれたりしていく様子を、 人々どうしで(地域社会単位で)文化が変わっていく様子として捉えることができます (⇒アクセルロッドの文化変容モデルを参照)。




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