テキスト ボックス: 「 投資家の意思決定と資産価格変動の分析 」
筑波大学 経営・政策科学研究科
経営システム科学専攻 高橋 大志

主指導教官 寺野隆雄 教授
1 研究課題

本報告は、仮想市場においてファイナンス理論、認知心理学の理論に基づいた異質なタイプの投資家を設定し、投資家の意思決定と資産価格変動の関係を分析したものである。

また、ファイナンスの分野において資産価格変動を推定するモデルとして知られているGARCHモデルをシミュレーション結果に適用し、投資家の意思決定の観点から時系列モデルの解釈のようなものを与えることも試みた。

 

2 経緯

2.1社会的背景

近年日本の人口構成の急速な高齢化が見込まれており資産運用業務の重要性はますます高まっている。資産運用を適切におこなうため、資産価格変動のメカニズムを明らかにすることは極めて重要性が高い。

2.2問題点

資産価格を導出するモデルとして広く知られているCapital Asset Pricing Model(以下CAPMと呼ぶ)は、解析的なモデルであり、マーケット・個人の行動に一定の仮定をおき、資産価格を導く解析的なモデルである。CAPMをはじめとする従来のファイナンス理論によるモデルは、「仮定が非現実的である」、「モデルでは説明できないアノマリーと呼ばれる現象が存在する」、など数多くの問題点が指摘されている。それらの現象を説明するいくつかの仮説が報告されてはいるが、マーケット価格の挙動を説明する決定的な理論は報告されてはいない。

認知心理学の分野において、[Kahneman 1979]らは人間の意思決定に関しProspect Theoryの報告をしている。当理論は、人間の意思決定に関し、(1) 利得発生時と損失発生時において投資家のリスクに対する態度が異なる、(2)人間の意思決定は客観確率ではなく主観確率により行われる、などの特徴があることを示唆している。当理論は、従来のファイナンス理論が基盤としている仮定を、実際の人間の意思決定にはあてはまらないことを指摘している。

 

3 シミュレーション結果

市場には株式、無リスク資産の2つの資産が存在し、投資家のタイプは4つ設定した。シミュレーションより以下の傾向を確認した。

 

(1)資産の取引は投資家の期待が変化する際に発生する傾向がある。

(2)過去の収益率を外挿する投資家が多いと短期的なトレンドが発生する。

(3)情報の伝わり方がラグを持つ場合、価格は理論価格にて安定しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


1 アナリストが入った時の価格変動

 

 シミュレーション結果と実際の株価指数に時系列モデルを適用したところ、実際の株価指数の変動とプロスペクトセオリーに基く投資家が示す価格変動には、共通の特徴があることを確認した。時系列モデルは、投資家の意思決定が価格変化の方向に対し異なることを反映しているとの解釈が成立する可能性がある。

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